炭鉱夫は止まらない

世の中に眠った役立ちそうなものを探して綴る雑記

【感想】青春ブタ野郎シリーズは涙なしには読めない

『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』は電撃文庫から出ている鴨志田一と溝口ケージによるライトノベルです。
鴨志田一と溝口ケージと言えば、前作『さくら荘のペットな彼女』で人気を博したコンビ。青春ブタ野郎シリーズは前作と同じく学園を舞台とした青春ものですが、その雰囲気は大きく違うものとなっていました。

キーワードは思春期症候群と量子力学

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[参照:量子力学2006年度講義録第1回 ]

本作はライトノベルでは新しい、SNS被害や「空気を読む」など現代の若者の間で起きている問題にフォーカスを当てた作品です。そして、その根幹となるのが度々出てくる単語“思春期症候群”
青春ブタ野郎シリーズにおいて最も重要なキーワードであり、全ての物語に関わってきます。

思春期症候群とは何なのか。
本作では「思春期特有の不安定な精神状態が引き起こす不思議現象」のことを示しています。
ここでいう不思議現象とは、『他人の心の声が聞こえた』とか、『誰々の未来が見えた』とか、『誰かと誰かの人格が入れ替わった』といったものです。
本来であれば妄想だとか思い込みで済むような個人の問題が、他者(現実世界)にまで影響を与えてしまっているといえばいいでしょうか。
主人公・梓川咲田はそんなあり得ない現象に次々と巻き込まれていきます。


本作のもう一つのキーワードは“量子力学”
思春期症候群によってあり得ない出来事が次々と起こるわけですが、それらを量子力学の観点から解決を目指していきます。

一応断っておくと、この物語に登場する思春期症候群自体は量子力学で説明がつくようなものではないと思います。
あくまで量子力学の観点から無理やり推察を行い、解決の糸口を探すといったものです。
量子力学の正確さなんかも、「高校生が考えたレベルで」と思えばそれほど気にならなくなるでしょう。

個人的には屁理屈だろうと現象を解明しようとしている点は好感が持てます。

思っていたのとは大きく違う、重く切ない物語だった

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[参照:青春ブタ野郎はハツコイ少女の夢を見ない ]

『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』
正直言ってわけのわからないタイトルだし、このタイトルを見て涙がポロポロ出てしまうようなストーリーを想像する人はいないのではないでしょうか。

本作は1~7巻で一つの大きな物語となっているのですが、実際に前半の4巻までは比較的ライトな内容となっています。(8巻以降については別の機会にでも)
女の子の元に起きた事件を主人公が解決してその女の子と仲良くなっていく。典型的なラブコメ展開で、言ってしまえば新キャラ登場のための序章でしょうか。
毎回新しい女の子が事件の主役になります。
女の子ばかり登場することもあってハーレムっぽさがありますが、ヒロインがしっかりと決まっているためラブコメ感は薄めです。
どことなく化物語に似てるなーなんて思ったりしました。


ところがこの構造は後半で一転します。

5巻からの物語は今までとは大きく変わり、主人公・咲田にとって非常に身近な問題になっていきます。
妹・かえでのこと、そして初恋の相手・牧野原翔子のこと…。

それでも初めのうちは暖かい気持ちで読んでいけるのですが、終盤から物語は一気に重く切ない話へと加速していきます。
もう涙腺がゆるゆるになってしまいます。
途中、「こんなに悲しい想いをするくらいなら読まなければよかった」と思うくらい落ち込みました。前作のさくら荘とは違い過ぎるディープな展開にビビります。

それでも、7巻まで読み終えた時は「読んでよかった」と心から思えるくらいに面白い内容でした。

誤解を恐れずに言うのならば、00年代に流行ったいわゆる泣きゲーに近い流れだと思います。
あの頃の作品が好きであればまず楽しめるのではないでしょうか。

よくある設定ながら納得のいく主人公

本作の主人公・梓川咲田はラノベの主人公としては非常によくある設定をしています。
・学校では無気力系の高校2年生
・妹と一緒に暮らしており、両親とは別居
・仲良くなるキャラは女の子ばかり!
・だけど問題解決のためだけは一生懸命になる

これだけ見るとほんともうお腹一杯な内容で全く惹かれません。
しかし、咲田には別にこのような設定も設けられています。

・思春期症候群をきっかけに世の中の理不尽を体験しひねくれる
・妹の思春期症候群がきっかけで母親がおかしくなり別居
・妹を思春期症候群から救えなかったという負い目がある

登場キャラが女の子ばかりなのは個人的にもあまり好きではないのですが、他の要素については結構納得のいく理由が用意されているのではないでしょうか。

個人的に主人公の設定というのは非常に重要です。
僕は主人公を自己に置き換えて読書を楽しむタイプのため、主人公の設定がふわっとしているとどうしてもシンクロ率が下がり面白さが減少してしまいます。
その点、本作は咲田の性格が好きか嫌いかは別にして、比較的没入しやすい設定がされているのではないでしょうか。

終わりに

青春ブタ野郎シリーズは間違いなく面白いと思える作品です。
社会人になって初めてハマった学園青春ものかもしれません。

一方で、万人にオススメできるかと言われると難しいのも本作の特徴です。
前半はよくある困ってる人を颯爽と助けていくヒーロー的な物語なのに、後半はどこまでも暗く重い話が続きます。失敗もしまくります。

ただ、それでも、まずはちょっと読んでみて、咲田や麻衣のことを好きになれたなら、後半の物語も読んでよかったなと思ってもらえるのではないかと期待しています。