炭鉱夫は止まらない

世の中に眠った役立ちそうなものを探して綴る雑記

錯覚資産についての本の感想と体験

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今回はふろむだ氏による著書『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』についてお話をしたいと思います。

「え? まだ実力で勝負とか言ってるの?」と、かなり煽り気味な表紙をしている本書は正直胡散臭い自己啓発本のように見えます。しかし、実のところは“認知バイアス”について図とイラストを駆使して優しく説明してくれる心理学への入門兼実践書でした。

おおまかな内容

“認知バイアス”という言葉はご存知でしょうか。
ざっくりと言うと「よく考えてみると理論的ではないのだけれど、なんとなくそれが正しいと思い込んで意思決定してしまう」という心理的効果です。
有名なもので言えばハロー効果というものがあります。ある分野の専門家が、他の分野のことについて発言しても「正しいことを言っている」と思われたりする効果ですね。

また、例えばさわやかなイケメンと出会えば「この人は良い人そう」と思い込んでしまったり、特別美味しいわけではなくとも行列のできるお店で食べたものを美味しいと思い込んでしまったり。

本書ではこのような認知バイアスのうち、自分にとって都合がいい錯覚を“錯覚資産”と呼んでいます。
この錯覚資産こそが、人生を左右する重要な要素なのだと述べられています。

詳細は本書を読んで確かめてもらうとして、本書は大雑把に以下のような内容になっています。

・社会に出たら実力・運・錯覚資産で評価が決まる
・最初の錯覚資産を得られるかどうかは運が関係してくる
・錯覚資産を持っているほど次の成功が得られやすくなり、更なる錯覚資産を手に入る
・だからまずは試行回数を増やすことが重要
・悪意ある錯覚資産から身を守るためにも、認知バイアスに対する理解は大事



Amazonレビューから見る錯覚の強烈さ

本書では認知バイアスについてしつこいくらい繰り返し説明されているのですが、その中にこんな一文があります

興味深いのは、「ハロー効果ね。ああ、知ってる」と言う人のほとんどは、あいかわらずハロー効果に引きずられて、誤った認識や判断をしているということだ。
「わかる」ということは、行動が「かわる」ということ。
行動が変わっていないのであれば、それは、わかっていないということだ。


ここでAmazonレビューを見てみましょう! 面白いことがわかります。
特に低評価である☆1のレビューに注目してみてください。

内容があまりに薄い

主に【ハロー効果】のことについて書かれているのですが、行動経済学などに興味があってその手の本を読んでいる人にとっては、今さらなにいってんの?というような話ばかりでした。

[Amazonレビューより

こんな感じのことがたくさん書いてあります。
彼らはハロー効果について知っているし、他にも心理学についても知見があるようです。
そうでありながら、「Amazonで高評価だったから」、「Twitterで話題になっていたから」という理由で本書を読み、そして自分が期待していたものと違うと憤っているのです。あるいは図星をさされてしまったからでしょうか。

まさしく「ハロー効果はわかるけれど、行動は変わらない」を実践している人たちなのです。


また、このような意見もあります。

しかし、実力も無ければ努力もしない人間がいくら上手に「勘違いさせるテクニック」を駆使したところで、同じ相手をずっと「勘違い」させ続ける事など出来はしない。必ずどこかで「化けの皮」は剝がれるのだ。

[Amazonレビューより

本書のタイトルは『人生は運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』です。このタイトルのせいで勘違いしてしまいがちなのかもしれませんが、本書では錯覚資産さえあれば運も実力もいらないとは一言も言っていません。
本書で書かれているのは、錯覚資産によって新たな機会に恵まれやすくなり、しかも成果を出せた時に評価されやすくなるということです。当然ながら本当に実力が伴っていなければ機会は活かせず、評価も上がりません。

こうした人たちは、「錯覚だけで上手くいくわけないだろ!」という思い込みのまま読んでいるのでしょうか。その結果、本に書いてある大事なことを読み飛ばし(あるいは読み間違え)、最初に自分が思った通りの結論を繰り出してしっているのかもしれませんね。

自分が嫌いなものは邪悪だし、間違っているし、ろくなメリットがなく、リスクが高い

という本書に記載されている内容をそのまま実践してしまっています。

このようにレビューも含めて本書を読んでみると、認知バイアスの効果がどれだけ凄いかわかってもらえるのではないでしょうか。知っているだけでは意味がないのです。
本書ではこの認知バイアスの厄介さについて何度も何度も説明しています。それだけやっても、認知バイアスから逃れられる人は一握りなのかもしれません。

錯覚資産の実体験

本書を読んで「自分も錯覚資産で得している場面があるな」と思い浮かぶことがあるので書き残しておこうと思います。

イラストレーターというAdobeのソフトをご存知でしょうか。
イラストやグラフィックを描くためのソフトなのですが、ペイントのような一般的なお絵描きソフトとは使い勝手が大きく異なるため慣れが必要です。

そんなソフトを入社早々に使わなければならない機会が訪れたのです。
幸いにも僕はこのソフトを大学の研究室で嫌というほど使っていたため、要求される大抵のことは簡単にこなせました。

これは別に僕が優秀なわけではなく、たまたま使い方を知っていただけです。
実際僕以上に使いこなしている人は会社にいましたし、あくまで手が空いている人の中では使える方だったというだけ。

しかし、こうして1つ成果を上げることで、「こいつは他のソフトも使えるんじゃないか?」と思われ、レンダリングソフトや解析ソフトなどさまざまなソフトを扱う機会が訪れました。
今までそんなソフトは使ったことがなかったわけで、説明書やチュートリアルを駆使してかなり時間をかけて操作を学んでいったのです。正直「これだけ時間かければ誰だって使えるようになるだろう」ってくらい時間を費やしました。
ところが、それだけ時間をかけても、周りの評価は「やっぱりこいつなら扱えた!」という高評価になるのです。

これには間違いなく「イラストレーターをあれだけ扱えた人でも、このソフトを習得するには時間がかかるんだ」という錯覚資産による補正がかかっています。

もちろん、ここでいくら時間をかけても習得できなければ僕の評価は上がることもなく、「新人でイラストレーターを扱えた」という錯覚資産は早々に効力を失ったでしょう。
しかし、人並みにパソコンを扱える実力があるだけで、錯覚資産無しの人よりも明らかに評価が上がったのが実感できました。

こうして実績を上げていくと、不思議なことにパソコンが関係ない仕事でも信頼されるようになってきます。
しかも、何かミスをした際もあまり怒られず、フォローしてくれるという機会も訪れやすくなっています。

このように錯覚資産というのは非常に身近にありふれているものです。そして誰もが大なり小なりその恩恵を受けているのではないでしょうか。

終わりに

薄いか濃いか、本書について述べるのであれば、薄いです。
なんせこの著者のふろむだ氏は心理学の学者ではなく、一介のブロガーなのですから。
当然ながら既存の学問を覆すような新発見を期待する相手ではないですし、そもそも本書は心理学の学問書ですらありません。

ハロー効果は確かに有名です。ですが、それでも知らない人は一定数いますし、名前は聞いたことがあってもよく知らない人なんてごまんといるでしょう。
一方でハロー効果を知っているにも関わらず、相変わらず周りの評価や著者の肩書きで評価を底上げしてしまっていることに気づかない人達がいます。
有名な心理学者が書いた本の方が役に立つと信じきってしまうがために、思考を放棄してしまっていては全く意味がありません。

本書を意義のあるものとみなせるかどうか。それは読み手が得た知識をしっかりと身に着けられるかどうかにかかっています。
この本で得た知識をしっかりと理解し、実践できれば、十分価値を実感できるでしょう。