炭鉱夫は止まらない

世の中に眠った役立ちそうなものを探して綴る雑記

セルロース読解問題を解読してみる

なぜか定期的に話題になっているセルロースの読解問題ですが、未だにとんちんかんな発言をしている人が多いようです。
既に詳しく解説しているところがありそうなものですが、この問題について僕のブログ記事を訪れる人が非常に多いようです。
なのでここで改めてこの問題について言及しておこうと思います。

制限時間との戦いであるテストでこの問題が出ると焦って間違えてしまう気持ちはわかります。
決して読みやすい文章ではありませんが、冷静になって読み解けば問題なく理解できる文章です。

マンガに置き換えて解読してみる

それでは文章を読み解いていきましょう。

アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。
[引用:国立情報学研究所]

69文字の一文ということで長いと言えば長い。
この文章を読み解くには2つ気を付けるポイントがあります。

・一つは見慣れない化学用語が出てくるということ
・もう一つはどの言葉がどれにかかるか気を付けること

特に一つ目の化学用語については、見るだけで拒否反応が出てしまう人もいるでしょう。
アミラーゼが何を分解するかなんて知らないから解けないよ! と。
しかし、この問題は別に用語の知識が無くとも解けるものとなっています。
極端なことを言えばアミラーゼや酵素という単語をAやBに変えても解けます。
とは言えそれは流石にわかりにくいかと思いますので、よく見る言葉に変換してみましょう!

“たかし君という漫画好きはマンガがたくさん載っている少年ジャンプは楽しめるが、同じマンガが載っていても、内容が違うヤングジャンプは楽しめない。”

どうでしょう。
ちょっと無理矢理な感じはありますが、ほぼほぼ同じ内容になりました。
(厳密にはマンガとグルコースは対比になっていないのですが…文章を理解するためということで今回はこれで)
マンガという身近な用語に置き換えてみるとピンと来る人は増えたのではないでしょうか。
この文を用いて読解を進めてみましょう。

前半文章の読解

さて、単語を見慣れたものに変えたので次はどの言葉がどこにかかるか注意して読んでいきましょう。
長くてわかりにくくなってしまった文章は分けて読んでしまえばいいのです。
ということで問題文を前半と後半に分けて読んでいきます。
まずは前半

“たかし君という漫画好きはマンガがたくさん載っている少年ジャンプは楽しめる”

この文章を更に分けてみると以下のようになります。

・たかし君という漫画好きがいる
・少年ジャンプにはマンガがたくさん載っている
・たかし君は少年ジャンプを楽しめる

これなら何を言っているか理解しやすいでしょう。


では同じように元の問題文を読んでみましょう。

“アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解する”

この文章を3つに分けると、

・アミラーゼという酵素がある
・デンプンはグルコースがつながってできている
・アミラーゼはデンプンを分解する

“漫画好き”な人がたくさんいるように“酵素”にもたくさんの種類があります。
今回はその酵素の中でも“アミラーゼ”の場合について話をしています。
そんなアミラーゼはグルコースでできたデンプンを分解しちゃいます。

というのが前半の内容です。
何を言っているかわからなくなったらもう一度マンガ版を読んでみましょう。

後半の読解

お次は後半を見ていきましょう。

“同じマンガが載っていても、内容が違うヤングジャンプは楽しめない。”

この文章を分解してみましょう。

・ヤングジャンプにもマンガが載っている
・ヤングジャンプと少年ジャンプは載っているマンガが違う
・たかし君は週刊ヤングジャンプを楽しめない

このような3つの文に分けることができます。
ここで言う“同じマンガ”というのは「マンガという大きなくくりでは同じ(タイトルが同じとは言っていない)」という意味であることに注意してください。ワンピースとキングダムは違う作品ですが、どちらも“マンガ”ですよね。
少年ジャンプとヤングジャンプで載っているマンガのタイトルが違うことは感覚で分かってもらえるかと思います。
誰にも好きなマンガ、興味のないマンガがあるかと思います。
たかし君の場合は、ワンピースのような少年マンガは好きだけど、キングダムのような青年マンガは好みじゃなかったようですね。


では同じように元の問題文の後半部分を分解してみましょう。

“同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。”

この文章を3つに分解すると、

・セルロースもグルコースでできている
・セルロースとデンプンでは形が違う
・アミラーゼはセルロースを分解できない

この時点で問題の解答はわかってしまいましたね(笑)
ですが、今回は解読が目的なので文章の意味を考えていきましょう。

マンガの場合は“タイトル”が違いましたが、グルコースの場合は“つながった形”が違います。
デンプンもセルロースもグルコースがつながってできたものですが、そのつながり方が違うために、アミラーゼはセルロースを分解できません。

以上が後半の内容です。

文章解読まとめ

概ね何が書いてあるのかわかったかと思いますが、ここでまとめて読んでみましょう。

“たかし君という漫画好きはマンガがたくさん載っている少年ジャンプは楽しめるが、同じマンガが載っていても、内容が違うヤングジャンプは楽しめない。”

この文章を分かりやすく書き直してみると、

“漫画好きなたかし君は少年ジャンプを読むのが大好きだ。でも、ヤングジャンプに載っているマンガは好みじゃないので読まない”

ヤングジャンプへの辛辣具合が上がってしまっている気がしますが、ほぼ同じ内容だと思います。(ヤングジャンプ好きな人すみません)


同じように元の問題文を読んでみましょう。

“アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。”

この文章を分かりやすく書き直してみると、

“酵素の一種であるアミラーゼは、デンプンを分解できる。ところでデンプンとセルロースはどちらもグルコースという同じものからできているのだが、形が違うため、アミラーゼはセルロースを分解できない”

このように直すことができます。
もしかしたらもっとわかりやすい文章に出来るかもしれませんが、僕の力ではこれが限界でした。

以上で文章の解読ができたかと思いますがいかがでしょうか。
一見すると専門用語が出てくるため、用語を知らないと解けないと思ってしまうかもしれません。
しかし、それぞれの用語の説明は全て文章中に書かれているため、用語を一切知らなくても十分解くことができるようになっています。

なんで形が違うと分解できないの? と疑問に思った人は、図書館などで酵素やグルコースについて調べてみるといいでしょう。
Wikipediaのセルロースの項目にもある程度載っていますが、専門的過ぎて難しいかもしれません。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%83%AB%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%B9

問題の是非について

セルロースの問題についてお話をする前に、非常に重要なことを共通認識しておきたいと思います。

この問題はリーディングスキルテストという「基礎的読解力」を測るテストに出題された問題だということです。
つまり、挙げられている文章を正しく読めているかどうかを確認したいという趣旨で出された問題なのです。

このことは問題が掲載されたサイトや新聞にもしっかりと書かれているはずなのですが、なぜか正しく読めていない人が一定数いるようなので改めて告知させてもらいました。

さて、これを踏まえたうえでこの問題が悪問かどうかを考えていきましょう。

どれを選んでも答えが合っているから問題が悪い

このセルロース問題を話題にしている人の中で一番厄介な存在。
それがこの「どれを選んでも答えが合ってるから問題が悪い」と言ってしまう人たちです。

なぜ全部答えが合っていると思ってしまうのか?
解答欄だけを見てみましょう。

“セルロースは(  )と形が違う”

確かに事実としてセルロースはデンプン以外にもアミラーゼやグルコース、酵素とも“形”は違います。
ただし、その場合の“違う”は極端に言えば“車と飛行機は形が違う”とか“サンマとキャベツは味が違う”のようなあんまりな暴論です。
当然ながらそんなことを聞いていないであろうことは容易に想像できます。

更に言えばこの問題には以下のよう一文が挟まれています。

“この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを1つ選びなさい。”

問題文ではセルロースとデンプンの形が違うことには触れられていますが、他のものと形が違うかどうかには一切触れていません。
ということは、解答は文中で唯一触れられている“セルロースはデンプンと形が違う”だけが正解となります。これ以外にあり得ません。

ということで「4つとも形が違う」という指摘による悪問認定は無理がありますね。


そもそもの話として、このテストは“文章を正しく読めているか”を問うている問題であり、解答を当てることが目的の問題ではありません。
それに対して「どの答えも合っている」と言うのは、「私は問題文を読めていません」と自白していることと同義です。

そんな状況でありながら自分は問題を正しく読めていると思い込み、あまつさえ相手が悪いと言ってのける輩はどう考えても関わってはいけない人間です。
ある意味この問題が話題になったことによる最大の功績と言えるかもしれません。
この手の人を見かけたらそっと距離を置きましょう。

問題文が悪文なので悪問だ

“悪文”という単語の正確な意味に自信が無かったので念のため調べました。

あくぶん【悪文】
難解な言葉を使ったり、文脈が乱れていたりして、理解しにくい文。へたな文章。
出典:三省堂 大辞林 第三版より

思ったよりもふわっとした表現でした。
これならセルロース問題は悪文と言っていいでしょう。
とてもじゃないけれど読みやすい文章とは言い難いですし、ちょっと工夫するだけで大幅に読みやすさが変わります。

この文章が教科書に載っているということは個人的には好ましくないです。
「文が読み難くて理解できないから」という理由で化学を嫌いになられてしまったら悲しいですね。この教科書には早急に改訂してもらいたいものです。

ですが、それはあくまで教科書としての話
読解力を確認するためのテストとしては“読み難い文”を問題に出すことは当たり前と言っていいですし、読み辛くはあるものの解釈は一つしかありません。
その解釈については既に本記事で説明しています。

悪問と言うには“警官は自転車で逃げる泥棒を追いかけた”くらい解釈が分かれる文でないと厳しいでしょう。

ということでこの問題は悪文ではあるものの悪問とは言えません。

終わりに

ここまで書いておいてなんですが、僕は別に国語の教師でもないし専門家でもありません。
もしかしたら間違っている箇所があるかもしれないので、その時はこっそり教えていただけると助かります。
既に再ブームも鎮火しているようですが、定期的にサイトに訪れる人が爆増するため、この記事もそのうち役立つでしょう。

今日はそんな感じで。
ではでは~